2014ー15年度クウェート政府奨学金を受け、クウェートにてアラビア語を学んだ記録。アラビア語やクウェート生活について。
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2014年9月17日水曜日

〈エッセイ〉国籍 Sep 17, 2014

直接的なクウェート情報ではありませんが、クウェートに住んでいて感じたことを文章にまとめました。



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授業終了後、他の日本人学生たちと共に大使館へ向かうことになっていた。
友人の努力のおかげでなんとかタクシーを捕まえ、定員オーバーのタクシーは炎天下の道を大使館へ向けて急いだ。

運転手はバングラデシュの出身だった。
クウェートの外国人は一様に「この国は暑い」と言う。確か、彼もそのようなことを言っていた。
運転手も日本人たちも車内の暑さに辟易して、黙り込んでいた。
その空気を打ち破るように友人が「バングラデシュはどんなところ?」と彼に英語で尋ねた。
彼は「バングラデシュは美しくて、いいところだよ」と、誇らしげに答えてくれた。

こちらに暮らしていると、「日本人だ」と自己紹介するだけで、なぜか喜んでくれる人が多い。
「こんにちは」「ありがとう」などと挨拶してくれた人もあった。
あと、女性からは「日本人は肌が綺麗」とよく言われる。理由はよくわからない(私の肌はストレスと脂っこい食事で荒れ放題だ)。
おそらく、日本という国のイメージを各々が抱いているのだろう、「日本ってどんなところ?」と尋ねられたことは今のところない。
プラスのイメージを彼らに示されるたび、なんとなくこそばゆい思いをする。

「日本はどう?」と尋ねられることがあれば、私は迷うことなく「いいところだよ」と答えるだろう。
だが、日本にいた時の私はきっとどう答えればわからず、何となくお茶を濁したのではないかと思えてならない。

様々な国籍の学生が集まっていると、出身国はその人をその人たらしめるかなり重要な要素となる。
それは精神的な理由が第一と捉えられるかもしれないが、異国の名前を上手に発音するのが難しいという物理的な理由もあるだろう。
クウェート人の先生は台湾人の名前が全くわからず、授業ではアラビック・ネームで呼び合っている。

だから、私たちは名前よりも先にその人の国籍を覚えてしまう。
日本人と日本語で話している時に「さっきあの○○人が〜」などと、3人称を国籍で表現してしまうことがあり、なるべくその人の名前で呼ばなければと自戒する。

決してよいことではないと思う。
私のアイデンティティーを日本に依存することも、他者を国籍で規定することも、好ましいことではない。
だが、自分が生まれ、育ち、長年暮らした母国の存在は、「外国人」である身には何よりも重要な要素なのだ。
それは私にとっても、この国で外国人として暮らす人にとっても、この国の国籍を持っている人にとっても、そうだ。

だから、文化も言葉も何もかもちがう環境で孤独に苛まれると、自分の母国を「よいところだ」と迷いなく表現するようになる。
この場所で自分を自分たらしめてくれるものをよいものとして信じることができなければ、私が私としてこのまま存在し続けることはできない。

日本にいた頃は、絶対にそんなことはしたくなかった。
けれど、気づいたらこう割り切っていた。
文化も気候も食べ物も何もかも違う国にいると、自然とこうなってしまった。

日本で、日本滞在歴が長いという韓国人の友人に「留学して、外国人として扱われる経験をした方がいいよ」と言われていた。
どこか無国籍の空気を纏う彼の言葉には何となく説得力があって、そんな経験も悪くないとぼんやり思いながら留学を決めた。
クウェートの地でその言葉を思い出す。
外国人として扱われることは、良くも悪くも新鮮な経験である。

だが、これほどまでに孤独なことだとは思いもしなかった。

いくら日本人がいっしょに来ていると言っても、20年と少し暮らした日本の大切な人たちは、遠く離れた日本にいる。
英語こそ通じるが、日本の常識は一切通用しない。
何よりも、外国人はどこに行ったところで「お客様」である。
そう扱われるのは気が楽でもあり、より私を孤独にもする。

他国からの留学生が孤独感を語ってくれた。
つらさの度合いこそあれ、私もあなたと同じ思いを持っているよとなんとか伝えたかった。
いつか伝えることができるだろう。
留学にくる前は「好きな人がいない国に行くってすごい」などと自虐していたが、住んでいるうちに好きな人は増えてくる。
人間関係を構築するうちに、私も変わっていくだろう。

1年は長い。その1年でどう変わるだろうか。

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